大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和37年(ネ)1717号 判決

控訴人 中野恵司

被控訴人 青山住宅組合

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。訴外森貝光子及び同万年理二は、被控訴組合の組合員でないこと、及び被控訴組合の財産について共有持分権のないことを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴組合の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張竝びに証拠の提出、援用、認否は、つぎの点を附加するほか原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

控訴代理人において、被控訴組合は当初控訴人を含む一七名が昭和二六年五月一日成立した組合契約(甲第一号証組合規約)に基づき東京都から分譲を受けた東京都港区赤坂青山南町一丁目五五番地の一二七宅地六二五坪一合九勺とその地上の家屋番号同町五五番の五、木造トタン葺二階建共同住宅一棟建坪一九八坪、二階一八六坪の建物(青山南町一丁目寮)を出資して結成した民法上の組合でその後昭和二七年四月以前に組合員榎本納が権利を抛棄して組合より脱退し現在組合員は一六名である。而して各規約によれば組合員の持分権は各自均等とし、特別の事由あるとき組合員全員のために譲渡して脱退する場合を除き組合員以外の第三者に譲渡してはならないと定められてある。然るに訴外森貝光子は組合員高橋清重から、訴外万年理二は組合員岩田善保から夫々組合員の地位を譲受けたとなし、現在組合員と称し、かつ被控訴組合の代表者蛯原春吉もまた右両訴外人を組合員として処遇しているが、前記のとおり、組合員たる地位の譲渡には組合員全員の同意を必要とするに拘らずこれが同意を得ていないから、右両訴外人は組合員たるを得ず依然としてその前者たる岩田、高橋の両名が均分持分を有する組合員である。而して組合の目的は前記土地建物の分譲を受けて各自組合の住宅を建設することを目的とするものであるところ、組合としては既に右建物の取壊わしを了し、現在土地については各自組合員の使用部分の地割をなしその土地の中央に私道を設けその下に下水溝、水道及び瓦斯パイプを埋設し、一部土留コンクリート壁を作るにまで至つたが、右地割をした土地は各組合員に対しその建物を建設するための使用を許したのみで終局的に分割行為をしたものでないから所有権移転登記も未了であるし、また私道その他の設備等の組合財産の帰属も決定しておらない。従つて上記組合財産(土地及び私道その他の施設)の処理のため組合の目的は終了していない。

以上によつて明らかなとおり請求の趣旨通りの権利関係が確定されるときは前記組合財産に対する各組合員の持分に影響するばかりでなくひいては適法なる組合員間の権利関係の争いも確定するにより控訴人は本訴請求について確認の利益がある、と述べ、

被控訴組合代理人において、被控訴組合が控訴人主張の日控訴人ほか一六名(その後一名脱退)がその主張の規約に基づき設立された民法上の組合であること、控訴人主張の如く建物を取壊し、私道、土留工事、下水道の設備を設け之等設備が組合財産として組合員の共有であること、土地については各組合員別に之を分割したが未だ所有権移転登記がなされてないこと、訴外森貝、万年の両名を被控訴組合が組合員として承認していることはいずれも認めるがその余の控訴人主張の事実は否認する。

被控訴組合は組合員が東京都から土地の譲渡を受けて住宅を建設する目的の下に土地代金の支払、土地の分割、所有権移転登記手続等の事務処理を円滑に行うための趣旨で結成されたもので右工事完了後右土地を協議分割し、各自の所有権は確定したので東京都に対し各自所有権移転登記手続を請求し得る状態にある。従つてこの地割した土地は控訴人主張の如く組合財産に属せず、各組合員は自由に処分し得るものであり、訴外森貝光子は訴外高橋清重から、訴外万年理二は訴外岩田善保からそれぞれその土地の所有権を譲受けたのであるが、その際組合員たる地位をも併せて承継せしめることにしたので、森貝については組合員全員の承認を得たが、万年については明示の承認はないが暗黙の承認を得ておるものである、と述べた。

理由

控訴人の主張によれば、控訴人は被控訴組合の組合員であるが、被控訴組合は控訴人主張の如き目的、出資を以て成立した民法上の組合で代表者の定めがあり且つ組合員の持分権は均分で現在控訴人を加え一六名の組合員を有するところ、訴外森貝光子、万年理二は夫々組合員高橋清重、岩田善保から組合員の地位を譲受けたとして組合員と称し且つ組合代表者も亦森貝、万年の両名を組合員として処遇していることを理由として、右両名が組合員でないことの確定を求めるというに在る。

民法上の組合は組合員共同の目的を達成するために締結された双務契約の一種であり、その組合員の数が相当数に達し組合員から独立した社会的な組織を為す場合は法人格のない社団と見ることが出来るが、斯の如き場合でも組合は組合対組合員の縦の関係の集合というよりも組合員相互のいはば横の関係が主軸となる人的結合関係(即ち契約、但しそれが売買、交換等の如く対立交換的な双務契約ではない)なのである。そして此の関係は(1) 組合の業務執行は組合契約に特別の規定のないときは組合員の過半数を以て決し、組合契約を以て業務の執行を数人の者に委任したときはその過半数を以て之を決するが、以上の場合でも各組合員又は業務執行者において之を専行することが出来(民法六七〇)、(2) 組合員を業務執行者と定めた場合、これを解任するには組合員の一致あることを要し(民法六七二)、(3) 各組合員は業務執行権を有しない場合も業務及び財産状況を検査する権限を有し(民法六七三)、(4) 組合員の除名は正当の事由ある場合に限つて他の組合員の一致を以て之を為すことが出来(民法六八〇)、また(5) 已むことを得ない事由のある場合には各組合員は組合の解散を請求することを認められ、更に(6) 組合が解散したときは清算は組合員共同にて又はその選任した者に於いて之を為し清算人の選任は総組合員の過半数を以て之を決する(民法六八五)等の規定にも表われていること極めて明らかである。

従つて、一般的に、組合員でない者が組合員を僣称し且つ斯る者が組合員として遇されている場合には、組合員でない者が組合契約の当事者として此の関係に介入して、前示(1) 乃至(6) の如き権能を行使し得る地位に在ることとなるのであるから、組合契約の真の当事者から見るときは自己の法律上の地位に不当な影響を受けること勿論というべきである。本件の場合、控訴人の主張によれば、被控訴組合の組合員の持分は均等であるから、仮に控訴人の主張事実が認められたとしても、訴外森貝、万年に代つて高橋、岩田の両名が組合員たることになり、控訴人の有する組合財産に対する持分権には増減のないことは勿論であるが、この故に組合員でない森貝、万年の両名が組合員として前示の如き権利を行使することを甘受すべき謂われのないことは前示の組合契約関係について述べた所から明らかである。従つて斯る場合森貝、万年の両名の組合員としての資格を争う者は右両名が組合員でないことの確定を訴訟上求め得ることは言うまでもない。

しかし民法上の組合契約に於ける組合員の資格は当初から組合契約の当事者になることによるの外、(1) 新に当該組合に単純参加加入するか又は(2) 旧組合員との交替によつて即ち旧組合員の脱退と之に代つてその地位を承継する新組合員の加入の形式によつて為されるのであり、右(1) (2) 何れの場合も新なる加入は新組合員と旧組合員全員との間の契約乃至合意に基づくこと(組合契約が新組合員の加入を組合の代表者又は業務執行者との間の契約乃至多数決によらしめている場合にもその契約は旧組合員全員との間に為される結論に変りはない。脱退すべき組合員と加入すべき組合員との間の契約のみによつて加入を許す旨が規定されてある場合は若干疑問であるが、他の組合員全員の同意が予め与えられていると看ることが出来よう)を要件とするのである。また組合員の脱退の意思表示(民法六七八条)は、他の組合員全員に対して(代表者の定ある場合は其の者に対して)為さるべきであり、除名の決議は他の組合員の一致を以て為し之を被除名者に通知すべきである(民法六八〇条)。

以上の結論はすべて組合契約の本質よりして然るのである。此等の点に鑑みると民法上の組合の組合員が原告として或る者の組合員たる資格を争う場合には(控訴人の主張自体から判断すれば本件は正に斯る場合に当る)、原告は少くともその所謂僣称組合員のみならず原告の主張を争う組合員(即ち原告の所謂僣称組合員を真正の組合員なりと主張する他の組合員)の全部をも被告とすることを要すると解すべきである。然るに本件に於いて控訴人(原告)は単に民訴法四六条に所謂法人に非ざる社団にして代表者の定あるものとして控訴人及び其の他の組合員の属する青山住宅組合(民法上の組合)をのみ被告としているに過ぎないのである。しかし、民訴法四六条所定の法人に非ざる社団(民法上の組合も之に該当する場合あること勿論である)を当事者とする判決の既判力はその構成員たる社員に及ばないのであるから、仮に控訴人申立の通りの判決があつたと仮定しても、被控訴組合の代表者はこの判決を理由に前示森貝、万年の両名に対し同人等を組合員にあらずとすることは出来ず、右両名は依然組合員としての処遇を代表者に対して求め得るのであり、また他の組合員と森貝、万年との間の関係も同様である。而も前示民訴法四六条は同条に所謂非法人社団の構成員全員が当該社団の法律関係について当事者となること乃至は構成員の一部分が当事者となることを禁止した趣旨ではなく、単に斯る非法人が社会上乃至取引上構成員から独立した存在と見られる点に着眼した訴訟法上の便宜的規定に過ぎないのである。斯く看ると控訴人主張の事実はそれ自体法律上確認の訴の対象となることは勿論であるが、被控訴人のみを相手方として確認を求めても商法一〇九条、二四七条、二五二条等の規定がない以上、結局その所期する目的を達成し得ないから、確認の利益なしと謂わざるを得ない。

以上の通りであるから原判決が確認の利益なしとして本案の審理に入らずに請求を棄却したのは、正当というべく、本件控訴は理由がないのでこれを棄却すべきものとして主文の通り判決した。

(裁判官 鈴木忠一 谷口茂栄 加藤隆司)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例